バスが大阪を出発し、京都へ向かって走り出す。
車内アナウンスとともに、バスガイドさんが楽しげにマイクを握った。
「みなさん、せっかく京都へ行くのですから、事前に知識をつけておきましょう!ということで、京都クイズ大会のスタートです!」
軽快な声に、クラスメイトたちが「おお!」と少しテンションを上げる。
座席のあちこちから「やろうやろう!」という声が聞こえてきた。
私たちも乗り気になり、後部座席で構える。
そして、最初の問題が出題される。
「京都には有名な三大祭りがあります!その名前をすべて答えられる人はいますか?」
すると、すぐさま手を上げたのは――隣の彼だった。
「はいはい、祇園祭・葵祭・時代祭!」
「正解です!」
「よっしゃ」
彼は少しドヤ顔をしながら、椅子にもたれた。
「俺、去年祇園祭に行ったんだよ。めっちゃすごかったぞ。宵山の雰囲気とか、もう別世界だった」
「え、いいなぁ!どんな感じだったの?」
「提灯の光で通り全体が包まれるんだよ。山鉾の周りにずらっと並んで、オレンジ色の灯りがふわっと揺れる感じ。祇園囃子が響いて、空気が完全に夏の祭りになるんだ」
「なんか、ロマンチックじゃん…」
「それ、絶対行ってみたい!」
友達も興味津々。
彼はさらに得意げに続ける。
「あと、辻回しな。あれが迫力ヤバい。巨大な鉾を90度回転させるんだけど、みんなの掛け声と力の合わせ方がすごくてさ。近くで見ると圧倒されるぞ」
「そんなのあるんだ!」
「知らなかった!」
彼の自慢げな語りに、私はちょっと悔しくなる。
次こそは私が答えて、見返してやる――!
「では次の問題!京都の住所には、独特の法則があります。それは何でしょう?」
「住所の法則?」
「え、そんなのあるの?」
後部座席の友達が戸惑う中、私はピンときた。
――この問題、前にテレビでやってた!
京都特集の番組で、好きな俳優が「京都って番地だけじゃなく通り名で説明するんですよね」と驚いていたのを思い出す。
今こそ、その知識を披露するチャンス――!
私は自信満々に手を上げた。
「京都では番地だけでなく、通り名を使って場所を説明するのが特徴です!」
「おお!! 正解!」
「よし!」
友達が「通り名? 何それ?」と驚く。
「修学旅行のしおりに地図があったでしょ?」
私はしおりを開き、京都の全体地図を見せる。
「ここに『木屋町通三条上ル』って書かれているんだけど、これは木屋町通に面してて、三条通よりちょっと北にあるってこと。『烏丸通御池東入ル』だと、烏丸通に面してて、御池通より東側ってことになるんだよね」
「へー」
「こうやって見ると、京都の住所って面白いね!」
彼もしおりを覗き込んできた。
「ふーん、お前、結構ものしりなんだな」
感心している彼に、私はちょっと得意げにしおりを閉じた。
「最後の問題です!京都にはあるものが約1600もあります。それは何でしょう?」
「何がそんなにあるんだ?」
後部座席の私を含めた女子3人、男子2人で顔を見合わせる。
「お茶屋さんとか?」
「いやいや、ここは京都だよ。神社じゃない?」
「もしかして、城とか?」
どんどん意見が飛び交う。
そして、ふと気になる彼が口を開いた。
「……いや、これは寺だろ」
「え?」
「京都は歴史が長いし、寺が多いのは有名だろ。昔からの文化を考えたら、1600っていう数も納得じゃね?」
「確かに…!」
そこで、私たちは一致団結し、答えを告げた。
「答えは――お寺です!」
「正解!」
「やった!」
勢いよく嬉しさがこみ上げ、私は思わず友達とハイタッチ――
そして、その流れで隣の気になる彼ともハイタッチしてしまった。
――あっ
だけど、彼はまったく気にした様子もなく、すぐに手を引いて普通に座っている。
…え、なんでそんな平然としてるの?
私はこんなにドキドキしてるのに。
「…ふーん、まぁ、簡単な問題だったね」
そんな態度を取ってしまった。
そして、言った直後に少しだけ後悔する。
――なんで素直に楽しめないんだろう。
彼は何も気にしていないのに、一人で勝手に照れて、一人で勝手に冷静なフリをして。
そう思うと、なんだか悔しいような、もどかしいような気持ちになった。
バスは京都へ向かって進んでいく――。