クイズが盛り上がったのもあり、気づけばバスの車窓から京都の街並みが広がっていた。
そして、目的地――清水寺へ到着。
バスを降りて、思いっきり息を吸い込んだ。これが京都。心なしか、歴史の匂いを感じる。
「皆さん、ここが京都を代表する寺のひとつ、清水寺です!」
バスガイドさんがマイクを握り、説明を始める。
「清水寺は778年に創建されたお寺で、『清水の舞台から飛び降りる』ということわざにもなっているほど、有名な本堂の舞台があります。この舞台は高さ約13メートルもあり、昔は願いを叶えるためにここから飛び降りる人もいたそうですよ!」
「え、そんな怖いことしてたの!?」
「13メートルって、ほぼ4階建ての高さじゃん!」
ざわめきが広がる。
「もちろん、今は飛び降りるなんてことはしませんよ!今では国宝にも指定されていて、京都の美しい景観の一部となっています」
ガイドさんの説明を聞きながら、私はしおりを開き、今日の自由行動の計画を確認する。
――ここからは自由行動。
清水寺周辺は、食べ歩きやお土産選びも楽しめる人気スポットだ。 舞台からの景色を楽しんだら、他の神社を見学したり、京都の名物を食べたり――やることはたくさんある。
私はワクワクしながら、バスを降りた。
「恋占いがしたい!」
友達の突然の宣言に、私は驚きつつも笑ってしまった。
「地主神社の恋占いの石、やってみたいんだよね!」
そんな彼女の希望で、私たちは清水寺の境内を進み、地主神社へ向かうことになった。
まず最初に、朱色が鮮やかな仁王門をくぐる。
大きな門の両側には、力強い仁王像が立っていて、鋭い視線をこちらに向けている。
まるで、「ここから先は特別な場所だぞ」と言っているような気がした。
「立派な門だね!」
「なんか、いよいよって感じ!」
友達とそんな言葉を交わしながら、門を抜けると、一気に京都らしい風景が広がった。
本堂を抜けると、境内の奥にある地主神社が見えてきた。
縁結びの神様が祀られているこの神社は、特に恋愛成就を願う人々に人気の場所だ。
さらに奥へ進むと、目の前に二つの石が置かれている。
恋占いの石――
本殿前に約10メートルほど離れて置かれたこの石は、目を閉じて歩いてたどり着ければ、恋が叶うと言われている。
一度でたどり着ければ、恋の成就も早く、何度も挑戦することになれば、それだけ時間がかかるのだとか。
「よし、やってみよう!」
友達の声で、いよいよ挑戦が始まる――
友達が順番に目を閉じて歩き始める。
手を前に出して慎重に進む姿が、なんだか面白くて、思わず笑ってしまいそうになる。
「もうちょっと右!」
「ちょっと左寄り!」
そんな指示が飛び交い、まるでスイカ割りのような状況になってきた。
そして、いよいよ最後は私の番だ。
私は深呼吸をしてから、ゆっくりと歩き出した。
「右右!いや、ちょっと左!」
「まっすぐ!もうちょっと前!」
頭の中で願いを思い浮かべながら進むが――そのとき……
――誰かに、肩がぶつかった。
「あっ、ごめんなさい――」
すぐに目を開けると、そこには気になる彼がいた。
「…お前か。こんなところにいたら邪魔だぞ」
「そっちこそ!」
反射的に言い返してしまう。
「お前のせいで目を開いちまったじゃねえか」
「私だってそうだけど!」
軽い言い合いになる。
周りに観光客がいることも忘れ、お互いに微妙な距離を保ちつつ、ムキになってしまう。
「ちゃんと前見て歩けよ」
「目閉じてやるやつなのに、前見ろとか無理じゃん!」
「だから、邪魔だって言ってんの!」
「そっちが避ければよかったでしょ!」
言い返した勢いのまま、彼はじっと私を見つめた。
いつものふざけた感じではなく、真剣な顔をしていて、一瞬言葉を失う。
「…お前、本気で信じてるの?」
「は?関係ないでしょ!」
咄嗟に言い返してしまう。
だけど――心の奥では、モヤモヤとした気持ちが渦巻いていた。
彼が恋占いをしていることが、なぜか気になる。
沈黙が数秒続いたあと、彼はごまかすように頭をかきながら、ふいに顎で遠くを指した。
そこには彼の友達が見守っていて、なぜか私の友達とも合流している。
気づけば、こっちにカメラを向けて、楽しそうに笑っているではないか。
「……俺は無理やり参加させられただけだから」
彼はポツリと呟いた。
その言葉に、思わず少しホッとする。
彼が進んでやったわけじゃない――それだけで、なぜか気持ちが軽くなった。
でも、それを気づかれたくなくて、私はあえてそっけなく言う。
「ふーん、じゃあ適当に歩けばいいじゃん」
「お前も、ふらふらするくらいなら、目をもっと見開けよ」
「はあ? なによそれ!」
もう一度言い返したところで、彼が小さくため息をつき、視線を逸らした。
「……もういいだろ」
その言葉に、私も恋占いを切り上げ、友達の元へと歩き出す。
すると、待ち構えていたかのように、にやにや顔の一同が迎えた。
「お帰り~! 楽しかった?」
「いい感じじゃん、願い叶いそう?」
からかうような言葉に、思わずむっとする。
彼も「バカ言うな」と不機嫌そうに応じるが、彼らの笑いは止まらない。
なんか悔しい。
でも、今のやり取りを思い返して、どことなく落ち着かない気持ちが残っているのも事実だった。