あなたは、鏡に手を伸ばした。鏡に触れようとしても、そこには何の感触もなく、指先が鏡の中に沈み込んでいる。
その様子を見た鏡の中の少女は、ぱっと明るい笑顔を見せ、伸ばしたあなたの指先に触れたかと思うと、あなたの体が勢いよく引き込まれた。
視界が歪み、空気が変わる。
あなたは保健室にいた。しかし、どこか違和感を感じた。
家具の配置がすべて左右反対になっている。壁のポスターの文字がすべて鏡文字。そう、ここは鏡の世界だ。
目の前にはあなたの手を両手で握りしめた少女が立っていた。
「来てくれてありがとう」
満面の笑みでそうあなたにお礼を言った。
どうしてここにいるの。あなたは少女を払いに来た退魔師であることを告げずに聞いた。
すると少女は言いづらそうにうつむいた。
「…ここしか私の居場所はないの。誰も私の友達になってくれないし……。お父さんも、お母さんも私の事避けてたし……。ずっと一人でさみしかったけど、あなたが来てくれてよかった」
少女は顔を上げてあなたを見上げた。笑ってはいるが、目が潤んでいるのがわかる。
名前の聞いてもいいかな。あなたは少女に自己紹介を求めた。少女は顔を赤らめ、もじもじとしながら答えた。
「そ、そうだよね。名前も知らずにいきなり友達になるのは変だよね。えっとね、私はひかり。鏡水ひかり」
鏡水ひかり。、あなたはその名前を聞いて校長からもらったもう一つの資料の内容を思い出した。
実は、この中学校内で起こった事件があったのだ。保健室で寝ていた生徒が目を覚まさないというものだった。現在は病院で入院している。その生徒の名前は鏡水ひかり。そう、この目の前にいる少女だった。
少女はあなたの顔を覗き込んで言った。
「どうしたの? 難しい顔をして。ねえ、今度はあなたの番よ。あなたの名前を教えてよ。そしたら私とお友達になれる。ずっとここで私と一緒に過ごせるの」
少女の握る手が強くなっていく。名前を言ったら、少女と同じように鏡の中に閉じ込められてしまうだろう。