あなたは静かに言った。本の作者は亡くなっていること、最終巻は存在しないことを本田透子に教えたのだ。
少女の気配が触れる。影が小さくなっていき、本田透子がその場でうずくまっていた。
「そんな……知りたかったのに……あの子がどうなるのか……幸せになってくれるのか……」
あなたは本田透子の側に近づき、優しく声をかけた。結末を求めてこの世にとどまるほどの未練、彼女を引き付けた本の内容を教えてと。
そして、その結末に本田透子自身が何を望むのか。 もしよければ、一緒に考えないかと。
その声に本田透子は顔を上げた。大きな目に涙を浮かべて、不思議そうにこちらを見上げている。
「私が求める最後……?」
彼女が涙をぬぐうとすっと立ち上がた。あなたは、本田透子を椅子に案内し並んで座った。
机の上の小説を二人の間に置き、彼女が話し出す。
「主人公は、ずっと片思いしてて…… 最後の夏祭りで、勇気を出して告白するの。相手は転校しちゃうって言ってて…… それでも、気持ちは届いて、二人は手紙を交わすの。未来でまた会えるようにって……」
あなたは頷きながら、物語の続きを想像する。 彼女の語る言葉は、どこか切なくて、でも温かかった。
「私ね……二人が再開する場面が見たかったの。二人の手紙には何が書かれているのかも知りたかった」
透子は、机の上の本にそっと指を添えながら、ぽつりと呟いた。
「この本の世界にいると、少しだけ現実を忘れられたの。誰にも話せなかったけど……本の中なら、私も誰かと繋がっていられる気がして」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「でもね……みんな、漫画とかアニメとかドラマの話ばかりで……。小説を読んでる子なんて、周りにいなかったの。感想を話す相手なんて、ずっといなかった」
あなたは静かに頷いた。
彼女の言葉は、まるでページの間に挟まれた手紙のように、静かに胸に届いた。
「本の世界にずっと一人でいたけど……こうやって誰かと共有するのも、悪くないね」
透子は微笑んだ。
その笑顔は、どこか寂しげで、でも確かに救われたようだった。
「最終巻は読めなかったけど、こうやって誰かと感想を話せたの、初めて。それだけで、十分だったのかもしれない」
図書室の空気が柔らかく揺れる。
陰陽盤が静かに光を放ち、少女の姿が淡く揺れ始める。
「私、もう行くね。こうやって誰かと本を共有するのも楽しいのね。それを教えてくれて、ありがとう」
少女の姿は光に包まれ、静かに消えていく。
机の上の本が、最後のページで止まっていた。
図書室の怪異、解決
陰陽盤の震えは止まり、空気が軽くなる。
あなたは静かに息を吐き、次の怪異へと歩みを進める。
図書室は、静かで穏やかな空間に戻っていた。
本田透子の物語は、あなたとの対話によって――
静かに、幕を閉じた。
さあ、次に行こう。