教室に入ると、黒板に張られた手作りの大きな地図が目に入った。 その前には、しわ一ないスーツに身を包んだ青年が立っている。
「ほら、立ってないで早く席について」
この青年が噂の教育実習生だろう。とても霊とは思えないキラキラした目がまぶしい。
だが、彼には真実を告げなければならなかった。
「あなたは三年前、事故で死んだのです。この教室はあなたのせいで使われていません。生徒たちは皆、あなたの声にこわがっている」
教育実習生の動きが止まる。
目を見開き、手に持ったチョークがポロリと落ちる。
そして――膝から崩れ落ちるように、教壇の前に座り込んだ。
彼の声は震え、息が荒くなる。
顔を上げた彼の瞳は、混乱と衝撃で揺れていた。
「僕は……生徒のために……わかりやすく、楽しく、って……!
ずっと準備して……図も作って……声も練習して……!
それなのに……それなのに……
怖がられてたなんて……!」
彼は両手で頭を抱え、教壇に突っ伏す。
「僕は……理想の先生になりたかったんです……!
生徒の目を見て、わかるまで寄り添って……
授業が終わったあとに『楽しかった』って言ってもらえるような……
そんな先生に……なりたかったのに……!」
嗚咽が教室に響く。
彼の肩は激しく震え、涙が床に落ちていく。
「でも……僕は霊になってしまった……!
生徒を怖がらせて……教室を空にして……!
理想とかけ離れた、ただの迷惑な存在になってしまった……!」
彼は顔を上げ、あなたをまっすぐ見つめる。
その瞳には、深い後悔と自責が宿っていた。
「僕は……悪い霊です。
生徒を傷つけるような存在になってしまった。
だから……祓ってください。
子どもたちのために……僕を、終わらせてください!」
あなたは静かに立ち上がり、札を手に取る。
彼はまっすぐこちらに歩み寄り、深く頭を下げた。
その姿は、真面目で、生徒思いで、夢を抱いていた青年そのものだった。
それなのに、事故に遭い、夢も叶えることもできず、今は自分を責めながら、祓われることを望んでいる。
あなたは、哀れに思いながらも、札に力を込めた。
除霊は、何事もなく終わった。
光も音もなく、ただ静かに――彼は消えた。
教室には、何も残っていなかった。
黒板も、机も、雲のギミックも。
ただ、空っぽの空間だけがそこにあった。
あなたは静かに息を吐く。
……もっと、彼を救う方法があったんじゃないか……
心の中が、どこかからっぽな感じがした。
1年2組の怪異、成功
陰陽盤は静かに震え、次の怪異の方向を示している。
あなたは、静かに歩き出す。
その背中に、誰もいない教室の静寂が、そっと寄り添っていた。