退魔師への道~廃校寸前の中学校を救え~

1年2組編『空き教室の声』

あなたは静かに教室へ足を踏み入れ、空いている席に座った。

教育実習生は嬉しそうに微笑み、黒板の前に立つ。

黒板には、手作りと思われる大きな地図が貼られていた。

山脈や海流、気候帯が色分けされていて、視覚的にとてもわかりやすい。



「この時期に偏西風が来ると……」



そう言いながら実習生は地図から飛び出した紐を引っ張った。なんと――雲が動くギミックが仕込まれていたのだ。

糸で吊られた雲が、ゆっくりと日本列島を横断していく。

風の流れを示すための工夫なのだろう。

張り切りすぎな彼に心の中でくすっと笑ってしまう。

だが、その工夫の一つひとつに、彼の“教えることへの熱意”が込められていた。

声ははきはきとしていて聞き取りやすく、おそらく発声練習を重ねてきたのだろう。

説明も丁寧で、例え話も交えながら、生徒の理解を引き出そうとしている。

授業の構成、話し方、板書の工夫――

どれも、彼が「先生になること」を本気で目指していた証だった。

何より、彼の瞳が印象的だった。

キラキラと輝き、教えることへの喜びがあふれていた。

なのに、あの事故で彼の先生への夢は叶わぬものとなってしまった。その未練から、こうやって1年2組で授業をし続ける霊となってしまったのだろう。

彼は祓わなければならない。それが仕事だ。だが、楽しそうに授業をする姿を見て、札に力を籠めることは出来なかった。

実習生の授業が終わった。やり切ったという清々しい顔。 その瞬間――彼の目から、一粒の涙が零れ落ちた。



「……先生になりたかったんです。ずっと、夢でした。でも……叶わなかった」



涙は止まることなくあふれていき、声も次第に涙声に変わる。

「でも、今日……あなたが授業を受けてくれて……

私は、先生になれた気がします。」 何も言えずにいるあなたの手元を見て彼はほほ笑んだ。



「私を祓いに来たのですよね。わかってはいました。ここにいてはいけないって」



彼はあなたに近づき、札を持ったあなたの手を握手するように握ると、深く頭を下げた。



「ありがとう。私を……先生にしてくれて」



その言葉とともに、彼の姿が淡く光に包まれていく。

教室の空気が柔らかく揺れ、陰陽盤が静かに光を放つ。

最後に、黒板に張られた図面が風もないのにふわりとはがれ、霧のように溶けて消えてしまった。

1年2組の怪異、成功

陰陽盤の震えは止まり、空気が軽くなる。

あなたは静かに息を吐き、次の怪異へと歩みを進める。

1年2組の教室は、静かで穏やかな空間に戻っていた。

教育実習生の夢は、あなたとの授業によって――静かに、叶えられた。